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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)29号 決定

抗告人 興信商事株式会社

右代表者清算人 関口徹夫

主文

原決定を取消す。

本件競落を許さない。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。」というのであり、抗告の理由は、別紙のとおりである。

本件記録によると、原審裁判所に提出された昭和五三年四月六日付鑑定人株式会社東神不動産鑑定所作成の鑑定評価書及び同年一二月一二日付同鑑定人作成の上申書には、本件競売物件である別紙物件目録記載(一)、(二)の各土地(以下「本件土地」という。)の現況は、それぞれ同目録記載の現況のとおりである旨記載され、その資料として、公図写(別紙第一図面)、横浜市地積図写、小山成次郎作成の測量図写が添付されていること、原審裁判所は、右評価書に基づき、競売期日の公告に本件土地を別紙物件目録記載のとおり表示し、かつ、これによって最低競売価額を定めてこれを一括競売に付することとして競売手続を実施し、昭和五四年一二月二六日競落許可決定を言渡したこと、抗告状添付の梅原設計測量事務所作成の測量成果図においては、本件土地の現況の地積は、本件土地の登記簿記載のとおりであるとされ、その資料として、公図写(別紙第二図面)、現況図、小山成次郎作成の測量図写が添付されていることが認められる。そこで、別紙第一図面と同第二図面を比較すると、本件土地の位置、形状、地積が異なり、ことに別紙物件目録記載(一)の土地についてその相違が著しいことが認められ、当裁判所が職権により取寄せた公図写(別紙第三図面)その他記録に現われたすべての資料を精査しても、本件土地の現況についていずれが正確なものであるかを明らかにすることができず、したがって、本件土地の地積の現況が別紙物件目録記載のとおりであると認めることができない。

ところで、競売法第二九条一項、民事訴訟法第六五八条第一号により、競売期日の公告に不動産の表示を要することとしたのは、これによって、競売の目的である不動産を特定し、その同一性を知らしめると同時に、他の公告記載と相まって、できる限り当該不動産の実状を競買希望者に知らせて、競買価額算定の手がかりを与え、もって多数の人々に競売手続に参加する機会を与えて、その競買申出にそごのないことを期するにあると解される。右公告の趣旨に鑑みれば、本件土地の現況の地積が別紙物件目録記載のとおりであることが認められず、公告の記載が現況と著しく異なる疑いを否定しえない本件においては、右公告の記載は、本件土地の同一性を欠き、前記のような公告の目的を達しえないものとして、違法であるといわなければならない。

よって、その余の抗告理由について判断するまでもなく、原決定を取消し、本件競落を許さないこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小河八十次 裁判官 日野原昌 野田宏)

〈以下省略〉

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